K2へ登る志の如く

しがないもの書きの、サイト更新の詳細情報を兼ねた日記

Twitter : @toresebu

Drawの冒頭部分

「ねえ美耶、モデルになってくれない?」
教室からぼんやりと窓の外を眺めて団扇でパタパタとしていると、実沙がそんな風に声を掛けてきた。
「モデル?」
「そう、モデル」
「何の?」
「私の絵の」
確か実沙は美術部に入っていた。そのモデルになれということだろうか。
「……何奢ってくれる?」
タダで描かれるなんてつまらないもの。それに、ほんのちょっとだけイジワルしたい気分だった。
だけど、それを聞いた実沙は思いの外困った顔をしている。さては……。
「え、ん〜と……、その、今月金欠で……」
やはり、そう来ましたか。
「なんだ、残念」
その言葉に実沙は過敏に反応する。
でも私は素知らぬ顔でまた流れる雲を眺めながらパタパタとしている。
「えっと……」
うん。
「あんまり大したもの、出せないけど……。それでもよかったら」
よし、勝った、この駆け引き。
要は値段じゃなくてその事実さえ得られればいいのだ。
だけど、それが私の早合点だったということを知るのはそう遠くなかった。

 先行公開中、と。